防災ヘリの救助有料化条例反対討論

日本共産党の村岡正嗣です。党県議団を代表して、議第2号議案「埼玉県防災航空隊の緊急運航業務に関する条例の一部を改正する条例」に、反対の立場で討論を行います。

提案者は、県防災ヘリコプターの救助有料化で無謀な登山が減少するとし、「受益者負担」を求めるべき、と主張していますが、遭難防止策は、本県の山岳遭難事故の実態に即して判断すべきと考えます。

2016年度、本県の山岳救助での防災ヘリ出動の実態は、総件数14件、内訳は、不明者の捜索活動4件、滑落3件、転倒3件、登山中の病気2件、足を滑らせた1件、スズメ蜂に刺されたが1件です。滑落事故の現場3件は、秩父市大滝雁坂トンネル付近の山林と、飯能市下名栗地内、さらに、小鹿野町の四阿屋山(あずまやさん)です。2000m、3000m級の山岳地帯を抱える長野県や富山県などと異なり、本県での山岳遭難は「道迷い」が非常に多く、案内板や標識の設置、山道の整備が求められています。

本県の山岳救助隊も遭難防止に注意喚起を行っていますが、それは、①登山届を必ず出すこと。家族にコピーを渡すこと。②早めに登りはじめ、余裕あるスケジュールとすること。③GPS等の対策を行うこと。④迷ってもショートカットせず登山道を歩くこと。⑤天候の急変に注意すること、などですが、これこそ現実的な遭難防止策であって、防災ヘリ有料化で登山者が慎重な行動をとることが期待できる、との主張は、本県の遭難実態からも登山者心理からも、かけ離れた空論です。多くの登山者の意見が「抑止にはならない」と否定的であることがその証左と言えます。

提案者は、ヘリ救助は特定の者に対してする行為、だから受益者負担は当然だ、とも主張しています。登山者は自己責任を認識しています。しかし、遭難覚悟で登山する人などおりません。危険を承知というなら、マリンスポーツでも町中でも危険は潜んでいます。何故、山だけ手数料を徴収するのか、何故、埼玉県だけが有料なのか、憲法の掲げる法の下の平等の原則に反します。

消防法はその第一条で、災害等による傷病者の搬送を適切に行う、と消防の目的を定めています。救助が必要であっても有料化で要請を躊躇するなどは、消防の根幹を揺るがすものです。

本年1月、飯能市と越生町境の顔振峠(こうぶりとうげ)で起きた遭難では、携帯電話からの110番通報は警視庁に入電しました。埼玉からの通報でも、山域を越え他県で受信されることもあるのです。どこで事故を起こしたか、どちらで救助したかで、有料か無料かが違ってくるようでは、現場に混乱をもたらしかねません。

3月17日、小鹿野町議会は、埼玉県議会でのヘリ有料化の動きに、山岳救助の現場に混乱をもたらし、登山客の減少で重要な観光資源に悪影響となるとして、慎重審議を求める意見書を採択しました。これが地元の声であり当然の見識です。この事実を県議会は重く受け止めるべきです。

有料化となれば埼玉県だけが、登山という文化的なスポーツを受益者負担の対象とし、公的救助を有料化した、その事実のみが独り歩きします。山岳救助は困難な活動です。だからこそ防災航空隊員は、日々命がけの救助訓練に励んでおり、気高い使命感をもっています。その隊員の士気をも低下させかねません。埼玉県が有料化を急ぐ必要はどこにもないのです。

わが党は、近隣都県や関係者との連携強化、登山道の整備、気象や山の情報提供、安全教育など、山岳スポーツ環境の整備によって遭難防止を図ることこそ、行政の責任と考えます。

防災ヘリ有料化で山岳遭難を抑止できるとするのは余りに短絡的であり、拙速な条例改正は、現場に混乱と悪影響をもたらすだけ、と強く指摘をして反対の討論とします。

以上